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* * *





大きなものが崩れていく音が聞こえた。
初めは小さな音だったものが次第に大きな音へと変わっていった。

隣をちらりと見ると瀬古は嬉しそうな、でもどこか悲しそうな顔で遠くを見つめていた。


言わなくても分かる、もうこの世界は崩れ去るんだ。

そして、別れがすぐそこに迫っていた。



「カズラ」

いつもの穏やかな声に気付き目線を上げる。

「カズラ、あなたが望む場所はどこ?」
「カズは・・・」


この世界に来て、私にとってここでの暮らしは一生のうちのほんの一部にしかすぎないものだった。
この戦いが終われば私は直ぐにレガルタに帰るつもりだった。
でも私には、そうと直ぐに答えられなかった。


「レガルタ・・・、だ」


私には家族がいる、そして私には家族と共に叶える夢がある。



「そう・・・、ならカズラとはここでお別れね」

でも瀬古には?

「瀬古も、自分の世界に帰るのか?」

元の世界に帰ったら、瀬古はまた ―――――

「瀬古はまた一人ぼっちになるんじゃないのか?」





私はいつも一族で、家族で暮らしていた。
だから一人ぼっちなんて意味を知らない。
この世界に来ても私はずっと瀬古の傍にいた、だから寂しくなかった。

『一人ぼっち』なんて私には想像もつかない、一人。誰も傍にいない、ただ一人自分だけ。





「前に話してくれたように、瀬古は、また・・・」



瀬古は私の言いたいことを悟った様だった。
だからといって私にはどうする力も無い、そう、この世界は崩れ去っているのだから。
瀬古の気持ちを考えると胸が苦しくなった、自分の無力さに腹が立った、次第に目が熱くなってきた。


「そうね・・・私、また一人ぼっちになるわね」
「何笑ってるんだ!カズは瀬古のことを心配して・・・!」



どうして瀬古は笑うのか理解できなかった。
だからカッとなってただ衝動的に瀬古を睨みつけた。


 

 

「ありがとう、カズラ」
「えっ・・・」


その言葉に驚いた、それは予想もしない言葉だったから。





 

「確かに私は現実に戻ったらまた1人になるわ・・・

 でもね、それ以上に私は、今までカズラと共に過ごせたこと、
 その思い出がね、これからの私の支えになる、そう思ってるの」


『ありがとう』の意味がわかった、その瞬間目から熱いものがこぼれ落ちた。

 

「泣かないでカズラ・・・私とカズラは、もちろん血なんて
これっぽちも一緒じゃないわ・・・でもね、カズラ」

片手で目をこすりながら、瀬古の言葉一つ一つに相槌をうつ。

「私ね、あなたのことを本当に娘みたいに思ってた
 わずかな間だったけど、私に娘がいたらこんなのなのかしらねって思ってたのよ」



ひとつひとつの瀬古の言葉が心に沁みた、その分涙が止まらなかった。



この時声をあげて泣かなかったのは、
せめて最後ぐらい瀬古に迷惑をかけまいとする私の悪あがきだったのかもしれない。






 

「忘れないで、なんて言わないわ、それは無理だもの
 でも、その青色のリボン、しばらく持っていてくれるとうれしいわ」
「・・・っぅ、う、もちろん、だ」

「ほら、泣かないでカズラ、あなたらしくないわよ?
 ・・・・・・そんなことじゃあ、レガルタに帰るの私心配だわ」
「し、心配は無用だぞ瀬古!カズはカズの母の様な一族を担う者になるんだ!」

「ふふ、いつものカズラね・・・その夢、頑張って叶えてね」

「!!・・・カズがやるって言ったら絶対だ!」

思わずいつものように返してしまい、しまったと思っていると。
瀬古はよかった、とぽつりと呟いて満足そうに笑っていた。








「時間はもうないのね・・・、・・・そうだカズラ」
「なんだ?」

 

パチン、と軽い音が響いた。
そして目の前には瀬古ではない、別の人間。

 

「これが、本当の私・・・さよならは本当の自分の姿でしたいから」



見た目は違うけれど、雰囲気で分かる。
なぜだかまた目が熱くなって、それを隠すためにそのまま正面から抱きついた。

でも今の私はとても嬉しくて仕方が無かった。


「やっと、本当の瀬古が見れたんだぞ!!」
そう言って笑えば、瀬古はほっとした様子で私を見た。





「ふふ、もっと早くに見せればよかったわね・・・
 カズラ、私の名前は美波っていうのよ、瀬古美波」

「みなみ?」
「ええ、カズラが嫌いな水に関係する名前だけどね」



せこ みなみ



「水は嫌いだけど、カズはせ、美波のことは大好きだぞ!」



心の中で名前を何度も呟いて、


 
「だから、美波って名前も忘れないぞ!」



この声も、顔も、姿も忘れてしまわないようにと、精一杯瀬古をみつめた。



「うれしいわ・・・カズラ」


瀬古は幸せそうに言うと、私を優しく抱きしめた。

 


 

「それじゃあ、カズラ、元気にね」
「美波もな!さよなら・・・なんだぞ」


 

心配をさせないように、別れ際に迷惑をかけないように、私の頭はそれでいっぱいだった。

けれど、瀬古の、美波の顔を見るとどうにも思っていられなくなる。


「美波・・・カズ・・・さみしいぞ」
「まぁ・・・カズラらしくないわね、しんみりして
 私は大丈夫よ、元気になさいカズラ」
「わ、わかってるぞ!そんなこと」
 


今度こそお別れ、そう思っていると徐々に自身が透けていくのが分かった。




 

「カズラ」
「なんだ」
「今まで、ありがとうね」
「カズこそ、ありがとうなんだぞ!」

 

カズラが笑えば美波も笑った。

 

「それじゃあ、本当にさよならね」


「うん・・・美波!
カズは、美波と過ごした日々を忘れないぞ!
 リボンも大事にする、だから瀬古もカズのことをわっ、忘れちゃ・・・い、嫌なんだだぞ!」


「あら、当り前じゃない、娘と過ごした日々はそう簡単に忘れないわ 
私がおばあちゃんになっても、断片的でもあなたのことは覚えていると思うわ」

「そうならいいんだ!」




最後に力強く手を握り返して、精一杯の声、笑顔で言った。




 「それじゃあ、美波、さよなら!元気にやるんだぞ!!」

 

 

 

「ありがとう、美波!」

 









 

 

 

 

 












 

*










レガルタに戻ってから長い月日が経った
種族争いは日常茶飯事だがこの世界はまだ変わらない
しいて変わったことといえばあの日を境に数名の顔見知りに出会わなくなった事


当の私といえば、見た目は多少成長した、身だしなみも多少気にするようになった、
でも相変わらず水は大嫌いだ。

「カズラ!早く支度しろ、置いてくぞ!」
「探し物してるんだ!・・・見つけた。」

探していたそれを摘み上げてパチン、と軽い音をさせて耳にはめる。
形も変わってしまってすっかり古びてしまったけれど、私の大切な大切な青色の宝物。


「やっぱり心配だわ。」何て言われないように、あの日の出会いを忘れないように。




は、






* * *









〔 ⇒ Side Seko 〕









*








「レガルタの景色はとても美しいんだ!ずっとずーっと夕焼けの空が続くんだ!」


「そう、それはいつか見てみたいものね。」


「そうだろ!瀬古にも見せてやりたいくらい美しいんだぞ!」








「今度は瀬古の話をカズに聞かせてもらう番だぞ!」





Special thanks for 開夢晴 & PSC*Another !!! 

半年間ありがとうございました!

(カズラ@やまこ。)



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